「お久しぶりです。お元気ですか？
今、インドに来てます。来週モロッコで、講座をしてから、帰国します。ゆうこさんの予定が合えば、食事、もしくはお茶でもいかがですか？」

5年ぶりの友人からのメールに、びっくりした。
と同時にわたしは嬉しかった。

モロッコで仕事！すごいなぁ〜。
語学堪能で勤勉なchi（チイ)と出会ったのは、10年前のアーユルヴェーダの講座だった。
そこをきっかけに、チイは、精神哲学や解剖学を学んで、独自の健康法を確立した。その内容が分かりやすいという事で、各地で講座を開き、今や海外でも講座を開催している。一年の半分を海外で暮らし仕事をしている友人に会うのは、とても楽しみだった。

約束の日、わたしが空港まで迎えに行った。
チイの姿を見つけ、久しぶりの再会に懐かしくハグをした。



「あれ以来だね」私は言った。

「そう、あれ以来。」チイは、大きく深呼吸をした。
「私の人生の中で、もっとも辛い決断をしなければならない時だったわ」

今から5年前、チイはドイツ人の旦那さんと、籍を入れたばかりだった。
タイで開催された、タイマッサージの講座で出会った2人は意気投合し、帰国（日本)してから、お互いの学びを統合した講座を開いた。すぐに評判になり、各地で講座を開くようになった…そんな矢先の事だった…。

「わたしアメリカに飛ぶわ。このまんまでは彼も自分もダメになる、わたし自分にウソをつく事はできないの」

ーー自分にウソをつくことはできない。
自分に正直に生きるーー。というその言葉を私は理解できなかった。ーーそれって、単なるわがまま⁇
しかし、口に出すことはしなかった。
なぜなら、チイはこれまでの困難も自分で選択し、自分で解決してきたのを知っていたからだ。

その時の選択をどうしたのか、わたしからは聞いていない。その事まで聞いて、あっという間に5年という時が経った。SNSの情報からは、ヨーロッパで活躍してる事だけ（仕事)は、知っていたので、わたしは半分くらい安心して遠くから見守る事にしたのだった。




「旦那さんに正直に話し別れることにしたの。すぐにアメリカへ飛んだわ。半年間2人で旅をしていろいろ話したの。でもいろいろあって、気づいたら私、鬱になって大変なおもいをしたの。アメリカ人の彼ともそれきり…」

それからチイは、1人カナダへ行き、半年ほど友達のアパートで過ごしたそうだ。その間にカウンセリングを受け、だいぶ回復した頃、勉強したい！という以前の好奇心が湧いてきた。それを逃すことなくすぐに南フランスへ飛んだ。

「アメリカという土地は、私に合わなかったの。あそこは土地も人間もすべてが、クレイジーだった。本気で生きてないから、本気で生きている私に、彼は驚き怖がったのよ。」

本気で生きていないーー。その言葉が私の心に突き刺さるように残った…。誰よりも自分のことは自分が知っている。本当にそれが好きなのか、世間に影響されていないか、毎日の瞑想で自問自答するチイの姿が、私の頭の中で浮かんだ。自分が嫌でたまらず気分が落ち込むのなら、動いてみる。それは誰の為でもない、自分自身のためなのだ。気分よく過ごせる自分を取り戻すためなのだから。

「同じ生きるなら、明日死んでしまっても私は後悔したくないそういう生き方をするわ。」

チイが静かに言った。








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